約 1,206,996 件
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/377.html
【秘めはじめ】/恵千果◆EeRc0idolE カーテンの隙間からこぼれ落ちる柔らかな朝の光が、この世でいちばん大切なひとを優しく照らす。 まだ薄暗い部屋のベッドに横たわり、すやすやと眠るそのひとの名は、東せつな。 そんなせつなを、同じベッドの中でやや上気した面持ちで見下ろしているのは、この桃園家で彼女と同居している少女・桃園ラブだ。 昨夜は慌ただしい大晦日だった。日中はこまねずみのようにくるくるとよく働いた。残っていた大掃除を片付け、お節を仕込んだ。夜は年越しそばを食べ、短時間で入浴すると着物に着替えて神社に向かった。 零時ちょうどに神社に集合したのは、美希・祈里・ラブの幼なじみ3人にせつなを加えたいつもの仲良しメンバー。 楽しい初詣を終えたラブたちが美希たちと別れ、自宅に戻ったのは、すでに3時を回っていた頃だった。 急いで着物を脱ぐと、簡単にたたみ和室の隅に置いておく。母親はすでに眠りについているが、翌朝片付けてくれる手筈になっていた。 パジャマに着替えると、ラブはせつなを自分のベッドに誘った。 ここ何日間かは多忙でせつなを抱きしめることすら久しぶりだったために、もっとも愛しい存在を腕にしたラブの身体は、当然激しい渇望を覚えて疼いた。しかし昼間の疲労も入眠の手助けとなり、せつなを抱きしめながらも何とか眠りに落ちていくことが出来た。 今朝、両親は8時に家を出る。かねてから、元旦は初詣と親戚まわりで朝早くから夜遅くまで不在になる予定となっていた。 夜中に初詣を済ませた娘たちを起こさずに出掛けるからと前夜に言われていたラブは、息を潜めて階下の物音を聞く。 ガチャリと玄関が閉められ鍵をかけられる音を聞きながら、出掛けていく両親に心の中で手を合わせ、今年もいっぱい親孝行するからね、と感謝をした。 せつなはまだ目を覚まさない。両親が出掛けた後も目覚めることなく、深い眠りの中にいた。昨日、人一倍頑張り精一杯働いていた彼女。疲労も相当だろう。 疲れているのはラブも同じだが、せつなとは違い、ラブには今朝とても大事な目的があったのだ。せつなよりも早く目を覚まさなければならない、大切な目的が。 カーテンの隙間から洩れる光が、少しずつ明るさを増す。初日の出を一緒に見ることは叶わなかったが、これから先、いくらでもチャンスがあるだろう。 それに――と、朝の陽光を浴びて眠るせつなを見つめてラブは思う。せつなの無防備な寝姿は初日の出の何倍もの価値がある。ラブは心の底からそう思った。だって、こんなせつなの姿は、自分以外の誰にも見られないし、見せたくない。稀有な宝石にも等しいものだったから。 今朝せつなが身につけているのは、白い小さめのドット柄が入った真っ赤なフリースのパジャマだ。襟や裾は白いパイピングで縁取られ、大きな黒のボタンで前閉じになる愛らしいデザイン。 どことなくキュアパッションを思わせる可愛らしい見た目に加えて、暖かさに於いても他のパジャマを遥かに凌ぐため、この冬のせつなのお気に入りとなっている。 そのパジャマの黒ボタンに、ラブがおもむろに手をかけた。目覚めてすぐにラブが暖房を効かせた室内はすっかり温もり、布団をよけてもまったく寒さは感じない。 上からひとつずつ、そっとボタンを外していきながら、少しずつ呼吸が速くなるのが自分でもわかる。下まですべてのボタンを外し終える頃には鼓動が早鐘を打ち、頬は薄紅く染まり、荒い吐息をついている有様だった。 久しぶりに見る恋人の恥ずかしい姿に大いなる期待を抱きつつ、ラブは自由になった布地を左右にゆっくりとはだけていく。途端、眩しい白の双丘がぷるんと揺れながらまろび出る。 眠る時、せつなはブラジャーを着けない。昨夜も彼女を抱きしめながらその隠しようのない膨らみを布越しに感じ、むしゃぶり付きたくなる衝動を幾度も抑えつけたことを思い出した。 まだ、その時じゃない。今はせつなをゆっくり寝かせてあげる時だから。朝になるまで耐えるんだ。自らに巣喰う獣にそう言い聞かせ、必死に朝まで先延ばしにした。 そして、今。ラブの中にいる獣に、獲物を捕獲するその瞬間が今ようやく訪れようとしているのだ。 こぼれるように姿をあらわしたその豊かな膨らみの先端を、ツンと上向いたピンク色の突起が艶やかに飾っている。 仰向けになっているのに形良く保たれたせつなのバストは、ラブの視線を釘付けにしていた。 横流れすることなく形良く尖り、適度な高さにそびえ立っている。その景色の素晴らしさに見惚れながら、ラブは自らの喉に貯まる唾を思わずゴクリと飲み込んだ。 室内が温められているとはいえフリースの布地によって適度な体温を保っていた乳房は、微妙な温度差を感受するとその先端をゆっくりと勃ち上げはじめていた。 目の前で誘うようにぷっくりと尖る先端を見せつけられた格好のラブに、もはや我慢など出来るはずもない。夜中から散々我慢していて、限界はとうに超えているのだ。 まるで初めて触れるかのように、おずおずと両の手掌をその豊かなまろみに伸ばす。最初は遠慮がちに触れていたが、徐々に大胆にこね回してゆく。 お餅をこねるように手の平全体で優しく揉みしだきながら、時に親指と人差し指で尖る先端を掠め、クリクリと摘み上げる。 幾度も摘まれ、先程までとは比べようもないほどに硬くしこったそれを見つめ、意を決するように欲望のままにくちびるでかぷっと喰んだ。熱い唾液をたっぷり塗しながら啣え、甘噛みしつつ口腔内でころころと舌で転がしてじっくりと味わう。 幸か不幸か、ひとつしかないラブの口に対し、せつなの乳房はふたつあり、口で可愛がってやれないもう片方の乳房はラブの手で愛撫を続ける。だが、もちろん片方だけしゃぶるのでは飽き足らず、結局ラブのくちびるは左右どちらの突起も啣えることとなり、満足するまで延々と舐めまわし、しゃぶり尽くした。 一方、微動だにしなかったせつなの身体には徐々に異変があらわれていた。ラブに愛され始めたことで、わずかずつではあったが覚醒の兆しが訪れていたのだ。 「あぁっ……ん……ふぅっ……」 深い眠りに居ながらにして強い快楽を与えられ続けたせつなは、いまや無意識下で甘い嬌声を漏らし始めるまでになっていた。 彼女のそんな変化に、ラブは気を良くする。せつな、待っててね。起きた時には今よりもっと気持ち良くしてあげるから。そう心に誓ってにっこりと微笑んだ。 さっきよりも一層淫らな動きで一心不乱に舐め続けるラブの舌は、不思議だがかすかに甘い乳のような味わいを覚えていた。 「おいひい……せつなのおっぱい……」 乳首を啣えながらしゃべるラブの吐息が、快楽に濡れて敏感な乳首を直撃し、せつなの愉悦をぐいぐいと押し上げる。 乳房への絶え間無い愛撫によってもたらされた快感は、乳首を渦の真中として徐々に拡がり伝染していく。それはせつなの脚の付け根にある中心にもびんびんと届き、そこは痛いほど収縮し、腰はなまめかしい動きでラブの愛撫に合わせ揺らめき出していた。 その腰の揺らめきに気づくと、ラブはせつなのパジャマのズボンに指先をかけ一気に下着ごとずり下げた。 その瞬間、せつなの股間と下着との間にひと筋の銀の橋が架かる。それは陽の光を浴びながらきらきらと輝きを放ち、つーっとシーツに落ちて消えた。 妖しく光り濡れそぼったその割れ目すら、ラブには神々しく見えていた。そのくせ、自分のものだと言わんばかりに無遠慮に人差し指を差し入れて、くいくいっと前後に突きはじめる。 その綺麗な花びらはもうすっかり濡れていて、いともたやすく開いて侵入者を迎え入れる。ぬめった粘液を絡めつかせ、やわやわと動めきながら奥にある花芯へといざなってゆく。 花園の奥には花芯が秘そやかに震え、そばには熱い潤いをたたえている蜜壷がこじ開けられるのを今か今かと待っていた。 ラブは恋人の大腿を両側に優しく開いて、濡れて光る秘所をあらわにして自身の眼前にすっかり暴いてしまうと、右手の親指で花芯を揺らして愛でながら人差し指で蜜壷に分け入り、さも愛しそうに少し乱暴に踏み荒らした。彼女の膣内はとても熱くて、ラブの指をたやすく飲み込み、絡みつきながらきゅうきゅうと締めつける。 指を引き出そうとすると、離すまいとするように内壁がぬちゅっと淫らな音を立てしがみついてくる。 その動きを幾度も繰り返して内部を拡げながら慣らしていき、ついには中指を加えて2本に増やし、だんだんその速度を上げていく。 少しだけ曲げられたラブの指先は、上手い具合にせつなのいい所を擦り上げてゆく。そうして2本の指がぐちゅぐちゅと淫らに出入りし、その都度ラブの親指がいたぶるように花芯を掠め通る。蜜壷に指を抽挿し続けながらも、意地悪なラブの親指は可愛らしい花芽にも甘い刺激を加えることを決して忘れないのだった。 ぷっくりと赤く大きく腫れ上がり真珠のように硬く勃ち上がったせつなの花芯は、ほんのわずかな愉悦にも敏感になっていて、矢継ぎ早に加えられる甘やかな攻撃に今にも果ててしまいそうだった。 どんどん激しくなる指の動きによって蜜が白く泡立ち、今にも湯気が立ちそうにも見える。せつなの秘所からはうっとりするほどの雌の匂いが立ちのぼり、ラブの鼻腔をくすぐる。ぬちゅぬちゅと粘度の強い水音が引っ切りなしに鳴り続け、ふたりきりの室内に響きわたる。 穏やかな眠りの海の中で揺ら揺らとたゆたっていたせつなを、突然、嵐のようなうねりが襲った。その意識は激しい波に流されながら、性急な何かによってぐんぐんと海上へと押し上げられていくようだった。 「んんっ……はっ、はあっ……、い、や、いやあ! ああっ! あああああああああ!!!」 せつなの意識は、夢から現実へと無理矢理に覚醒させられたと同時に性感の頂点に達し、激しいスパークに包まれたまま、白い闇に飛ばされ、放り出された。 半時ほど後にようやく意識を取り戻したせつなを待っていたのは、とどまることなく溢れ出して陰部の後ろにまでぬらりと流れこぼれ落ちようとするせつなの蜜を、恥部にかぶりつきながら掬い上げるように舐め取るラブの、それはそれは淫らに微笑う濡れた笑顔だった。 「やッ!! ラブ!? どしてっ、あんっ! ひあぁっ」 絶頂の中で意識を手放したはずが、再び強い快楽の中で意識を取り戻し、その間にもせつなの身体は絶え間無い小刻みな絶頂を繰り返していた。 「おはよう、せつな。やっと目が覚めたんだね」 「おはよう、って、ひあぁっ! ラブ、んんっ、これ、は一体何なの? あぁん!」 「これはね、秘めはじめだよ」 秘めはじめ。せつなも知識として知ってはいた。愛し合うふたりが、その年に初めて行う愛の行為。だが、そんなことが自分の身に、しかも新年早々眠ったままで行われ、絶頂に身悶えながら目覚めさせられるとは夢にも思わなかった。 耐えられない恥ずかしさとともに、ラブの舌に嬉々としてしゃぶりつかれた花芯から拡がりゆく例えようのない愉悦に包まれ、せつなはまたしても深く達してしまう。 終わりなく続くラブの舌技に翻弄され、せつなは再び意識を手放した。 真っ赤な顔をして気を失ったせつなの秘所からようやくくちびるを離すと、ラブは口腔内に残ったせつなの蜜を余すことなく飲み下した後で、せつなのくちびるに近づいて愛しげにくちづけた。 先程までせつなの花芯を愛でていた舌を、今度はせつなのそれに絡みつかせ、ねぶる。ねぶりながら切れ切れに紡がれた言の葉。 「せつなぁ……愛してるよ……永遠に離さないから……」 気を失ったままのせつなに届くはずはないのだが、その言葉が放たれた直後にあでやかに微笑んだせつなを、ラブは確かにその瞳に刻みつけたのだった。 了
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/337.html
第6話 君を離れ この部屋は時間が止まっている。秒針すら動かない気がする。 頭の上で祈里の息遣いが荒くなる。せつなは舌の動きを速める。 祈里が甲高い声を上げ体を跳ねさせると、蜜がせつなの唇の端から溢れ、流れた。 「次は、せつなちゃんの番ね。」 祈里は自分の愛液で汚れたせつなの唇を指で拭うと、そのまま乳房に手を伸ばした。 「…ねえ、好きって言って?」 いつもなら、虚ろな瞳で心の籠らない台詞を繰り返すせつな。 しかし、せつなは祈里の手首を掴み、自分の胸を弄ぶ指を引き剥がした。 「……もう、止めましょう…」 せつなは顔を上げ、祈里の眼を真っ直ぐに見つめた。 あの日以来、せつなはラブの眼も祈里の眼も見られなくなっていた。 ラブに対しては後ろめたくて。祈里に対しては…… 見たく、なかったのだ。 親友だと思っていた少女が、自分の体を恣になぶっている。 その顔にどんな表情が浮かんでいるのか。 そんなものは、見たくなかった。 情事の最中の祈里をはっきり見るのは、これが初めてだ。 上気した頬に、熱っぽく潤んだ瞳。でも、その顔は相も変わらず 聖女のように清らかで…… とても同い年の少女に自分の秘所を舌で奉仕させ、達したばかりなどと思えない。 「……ふぅん、ラブちゃんに…」 バレてもいいんだ。そう続けようとすると…… 「…ラブに、話すわ。」 祈里は少し目を見開き、探るように問う。 「なんて?祈里に騙されて強姦されました…って? わたしの事、悪者にするんだ。」 あんなに感じて、何度もイッた癖に。そのあとも、ずっとラブちゃんを 裏切り続けた癖に。 祈里の言葉はいつも、一番せつなが言われたくない事を正確に突いてくる。 いつもなら、ここで項を垂れ、また人形のように祈里のおもちゃになるはずだった。 「そんなことは……、言わないわ。」 だってラブが哀しむもの。 恋人に裏切られ、しかもそれは親友が罠にかけたから。 そんな事を知ればラブはどんなにか傷付くだろう。 ラブ……その名前を聞いた途端、柔らかな微笑みを浮かべる祈里の瞳に すっと氷の膜が張るように醒めた光が宿る。 「じゃあ、なんて?どちらかが無理矢理手を出さないと、 こんな事にはならないでしょ? 誘惑されて、ついフラフラと?」 こんな時までラブの事しか頭にないせつなに祈里は苛立つ。 どうすれば、もっとせつなを追い詰められるのか… 「…じゃあ、わたし、せつなちゃんに誘惑されたって言っちゃおうかな? ラブちゃん、どっちを信じるかな。幼馴染みで親友のわたしと、 出会ってまだ一年と経ってない、しかも最初はラブちゃんを騙して 近づいたせつなちゃんと。」 それは、せつなだろう。と祈里には分かっている。 せつながどれだけラブを愛しているかは誰が見たって明らかなんだから。 事実なんて、どうでもいい。ただせつなの心を揺さぶる事が出来ればいいのだ。 「……ラブは、気付いてるわ。」 せつなは臆せず祈里を見つめ返す。 ……知ってる。祈里もとうに気付いていた。ラブが、サインを送ってきたから。 最初は左乳房の脇にあった。 次は右乳房の下に。そして内腿の付け根、足を広げなければ見えない場所に。 花弁のような、赤い痣。 普段は見えない、けれど、その体を愛でようとするものには、嫌でも目に付く場所に。 『これはあたしのモノ』、所有権を主張する、印。 それは、日を追うごとに増えていった。 祈里がせつなを抱いた、その翌日でも。 せつなが自分に体を開いたその日まで、夜はラブを受け入れている。 その事実は祈里をこれでもかと、打ちのめした。 祈里との情事があった日くらいは、気まずくてラブを寄せ付けられないのではないか。 そう、思ってたから。 だから、せつなをますます言葉でいたぶる。 『せつなちゃん、エッチね。一日に一人じゃ満足出来ないの?』 『淫乱って、せつなちゃんみたいな子の事いうのね。』 『本当は、まだ足りないんじゃないの?欲しいって言ってごらん。』 「ずいぶん自信、あるのね。許してもらえると思ってるの? 言い訳なんて出来ないと思うよ。」 いっそ、心配そうにすら聞こえる声で祈里は言う。 無駄に、傷付くだけよ……。 「……許してもらえなくても、いい。軽蔑されたって……」 せつなの声が震える。 「このまま、嘘を続けるよりは、いいもの。」 泣くのかな?そう思った。 でも涙はせつなの瞼の淵にとどまり、目をそらすことなく見つめている。 「……側にいるって決めたの。」 「どうやって?」 意地悪く、祈里は続ける。 「ラブちゃんが、顔も見たくないって言ったら?出ていって欲しいって。 せつなちゃん、あの家追い出されたら行くとこなんてないのよ?」 「惨めよね、せつなちゃん。泣いてすがるの?『捨てないで』って。 恥ずかしくない?」 「……惨めなんかじゃないわ。」 せつなの瞼から塞き止められなくなった涙が溢れる。 「恥ずかしくなんて、ないもの。祈里は、違うの?」 泣いて、すがって、それで好きな人の側にいられるなら、いくらでもそうする。 他に欲しいモノなんてないのだから。 どう思われたって構わない。 ラブがどう思おうと、好きなのはラブだけだから。 「…祈里のことは、好きよ。でも、ラブより好きになれる人なんていないの。」 祈里の神経がささくれ立つ。好き?馬鹿にしてるの? 「……ここまで来て、取り繕う事ないのに。」 これ以上嫌いになりたくない。せめてそう言えばいいのに。 嫌いなんて言ったら、わたしが傷付くとでも思ってるのかしら?今さら? 「そこまで、いい子ぶらなくてもいいのに。自分が何されてきたか分かってる?」 殺したいほど憎まれても仕方ない。その自覚はあるもの。 「………本当よ。不思議だけど。」 酷い、と何度も思った。 それでも、祈里を憎む気持ちは湧いてこない。 ただ悲しかった。祈里の気持ちが。 「………嘘つき。……わたしのこと、考えたことなんてないくせに。」 「もう……、ここにはこないわ。」 祈里の呟きには答えず、せつなは鈍い動きでボロボロの体を引き摺るように、 のろのろと身支度をする。 いつもの光景。 違うのは、目をそらしているのが、せつなではなく祈里だと言う事。 赤い光に包まれて、せつなの気配が消える。 薄暗い部屋に取り残された祈里に、もう微笑みは浮かんでいなかった。 第7話 祈りへ続く
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/148.html
「おあずけ」/◆BVjx9JFTno 「せつな、大丈夫?」 「ええ...何とか」 玄関の掃除をしていたせつなが 天井のすすを取るために登っていた 脚立から、落ちた。 幸い、お尻から落ちたので 湿布を貼る程度で済んだ。 「こういうときに、アカルンで移動して 守ってくれればいいのに...」 つい、あたしは愚痴ってしまった。 「キィ?」 少しムッとしたような、アカルンの声が 聞こえたような気がした。 掃除も済み、あたしの部屋で せつなとお茶を飲む。 窓の外に、綿のような雪が ちらつき始めた。 「わあ、寒そうだね...」 「ええ...でも、ラブと居ると暖かいわ」 「せつな...」 せつなの髪に触れる。 さらりと、指が通る。 せつなが、微笑みながら こっちを向く。 せつなが、目を閉じる。 あたしだけの、せつな。 唇を、寄せる。 空を切った。 「あれ...?」 ドアが開き、 せつなが入ってきた。 「ごめんなさい、ラブ...」 「どうしたの?」 「急に、私の部屋に移動しちゃって...」 「アカルン?」 「そうみたい...」 あたしが、あんなこと言ったから 怒ってるのかな。 「ラブ、せっちゃん、ごはんよ!」 「はーい」 おあずけ。 体が火照っているのは、 お風呂上がりだから、だけじゃない。 夕ご飯に、うなぎをたくさん 食べたせいか、妙に...その...。 ドアがノックされ、枕を持った せつなが入ってきた。 「あの...ね、ラブ...」 せつなの様子を見れば、 何が言いたいのか、わかる。 真っ赤に火照った顔。 もじもじと動く、足。 「あたしも、待ってたよ...」 せつなが、あたしの隣に座り 頭をもたせかける。 洗い立ての髪の、いい匂い。 胸いっぱいに、吸い込む。 両肩を軽く押すと、せつなは パタンと、ベッドに仰向けになった。 潤んだ、せつなの瞳。 両手を拡げるせつなに、 吸い込まれる。 布団に、顔から着地した。 ひとりで、うつぶせに寝ている。 「もう!どして?」 部屋の向こうから、 かすかに聞こえる。 また、おあずけ。 体が疼く。 我慢できない。 布団の中で、 パジャマを全部脱ぐ。 胸に、手を触れる。 想像する。 あたしの乳首を可愛がる、 せつなの人差し指。 もう片方の乳首の上で、 細かく動く、せつなの舌先。 「ラブ、ここ好きよね...」 手を、下に降ろす。 すでに、滴り落ちそうなほど あふれている。 せつなの吐息が、かかる。 敏感な部分を、吸われる。 やさしく這い回る、せつなの舌。 あふれるそばから、せつなに すくい取られる。 指が、入る。 浅く、深く。 ゆっくり、速く。 あたしの高まりに合わせるように、 中をかき回し、上の壁を擦る。 耳元で、ささやかれる。 「ラブ...大好き...」 体の奥から、刺激が 突き上がってきた。 腰が浮く。 突然、横に人影が現れた。 せつな。 あたしと同じように、裸で 自分を慰めている。 「えっ?せつな?何で...あああっ!」 「ちょっと!やだ!どしてラブが...あああん!」 同時に、果てた。 見られながら。 見ながら。 背を向けて、寝転がる。 顔から火が出るほど 恥ずかしい。 「せつな...見たよね」 「ええ...私のも...よね」 「はしたない、よね...」 「私こそ...」 「でも...せつなのこと考えたら、あたし...」 「私だって...ラブのこと考えながら...」 向かい合う。 「ふたりが、いいよ...」 せつながうなずき、 目を閉じる。 再び、体が熱くなる。 きっと、アカルンの機嫌が直って あたしたちを引き寄せてくれたんだ。 やっとだね、せつな。 手を伸ばし、唇を寄せる。 手も、唇も、 空を切った。 また、おあずけ。 「もーう!アカルン! 機嫌直してよお!」 ふたつの部屋から、 悲痛な訴えが同時に聞こえた。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/617.html
「死」/Mitchell Carroll 今まで何度もラブに抱きしめられてる。 キスだって何度もしてる。 でも今は...裸。 もう私、何も嘘をついてない。何も嘘をつけない。 ラブの体温が、じかに伝わってくる。 「幸せすぎて怖い。」 せつなのとびきりの告白。巨大な氷が、音を立てて解けていくようだ。 ラブはせつなを、さらに強く抱きしめた。自分の体温がより相手に伝わるようにした。 そうすれば、氷はもっと解けるから。 華奢な体はいつもより小さく感じた。 抱き合ってる分だけ、氷は解けていく。 ラブの情熱が、瞬く間にせつなのこころの氷を解かしていく。 せつなの手が、指先が、髪が、胸が、脚が、唇が、ラブによって熱を与えられていく。 冷えきった体が、ラブの手のぬくもりによって形を成していく。 どこかの温度が下ろうものなら、ラブはまたそこに熱を与える。 せつなは今、ここにいる。それを確かめる。何度も、何度も。 ラブの愛撫行為は全身に及んだ。 せつなも負けじと、ラブの体に必死にしがみつき、その手からもラブの熱を吸収する。 嗚咽はやがて叫びに近いものへと変わる。 以前にもこんなふうに悶えたことがある。でもそれは、苦しみと悲しみにまみれたものだった。 だが今は違う。よろこびに溢れる自分の気持ちを表現するには、こうするしかなかったのだ。 「ラブ、私もう、どうなってもいい。」 ならば、茂みの奥に秘密の場所がある。 そこはせつなの、せつなたる部分。ラブはそこに口づけをする。 「ウァーッもう死んでもいい!死んでもいいの!!」 以前にもそう思ったことがある。でもやはりそれは、ただの強がりだった。 だが、今は違うのだ。 今宵は満月だったが、せつなの体は立派な三日月をかたどっている。 「しっ死んじゃう!死んじゃう!!」 せつなの芯に触れつづける、ラブの舌。 「死ぬぅーっ!!」 そう言い残すと、ピクリとも動かなくなった。 あんなに速く脈打っていた心臓も、どこか陰のあったせつなの表情も、今は穏やかである。 「(ラブ、私幸せ。私、気持ちいいの。分かるでしょ?ラブ...。)」 それは言葉を越えたテレパシーのようなものだったが、ラブはそれを受け取った。 そして、せつなの頭を、今度は優しく撫でるのだった。 ――ラブ、実はね、私がまだあなたの敵だったころ、何度も見た夢があるの。 何でそんな夢を見るのか、不思議だった。その夢はね... 私と、あなたが、結ばれている夢。 夢の中で私が感じていたものは...幸せ。 そんなはずはないって思ってた。その時はね。 でも、それが今こうして、現実になってる。 夢で見たように、お互いに裸になって、抱き合って...確かめ合ってる。 ラブ、あなたのことが、ずっと好きでした。これからもずっと。 私が今感じているものは、幸せ。嘘じゃない。 ...生まれてきたよかった。神様、ありがとう。ラブとめぐり合わせてくれて。 fin. 全237へ
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/65.html
この部屋は時間が止まっている。秒針すら動かない気がする。 頭の上で祈里の息遣いが荒くなる。せつなは舌の動きを速める。 祈里が甲高い声を上げ体を跳ねさせると、蜜がせつなの唇の端から溢れ、流れた。 「次は、せつなちゃんの番ね。」 祈里は自分の愛液で汚れたせつなの唇を指で拭うと、そのまま乳房に手を伸ばした。 「…ねえ、好きって言って?」 いつもなら、虚ろな瞳で心の籠らない台詞を繰り返すせつな。 しかし、せつなは祈里の手首を掴み、自分の胸を弄ぶ指を引き剥がした。 「……もう、止めましょう…」 せつなは顔を上げ、祈里の眼を真っ直ぐに見つめた。 あの日以来、せつなはラブの眼も祈里の眼も見られなくなっていた。 ラブに対しては後ろめたくて。祈里に対しては…… 見たく、なかったのだ。 親友だと思っていた少女が、自分の体を恣になぶっている。 その顔にどんな表情が浮かんでいるのか。 そんなものは、見たくなかった。 情事の最中の祈里をはっきり見るのは、これが初めてだ。 上気した頬に、熱っぽく潤んだ瞳。でも、その顔は相も変わらず 聖女のように清らかで…… とても同い年の少女に自分の秘所を舌で奉仕させ、達したばかりなどと思えない。 「……ふぅん、ラブちゃんに…」 バレてもいいんだ。そう続けようとすると…… 「…ラブに、話すわ。」 祈里は少し目を見開き、探るように問う。 「なんて?祈里に騙されて強姦されました…って? わたしの事、悪者にするんだ。」 あんなに感じて、何度もイッた癖に。そのあとも、ずっとラブちゃんを 裏切り続けた癖に。 祈里の言葉はいつも、一番せつなが言われたくない事を正確に突いてくる。 いつもなら、ここで項を垂れ、また人形のように祈里のおもちゃになるはずだった。 「そんなことは……、言わないわ。」 だってラブが哀しむもの。 恋人に裏切られ、しかもそれは親友が罠にかけたから。 そんな事を知ればラブはどんなにか傷付くだろう。 ラブ……その名前を聞いた途端、柔らかな微笑みを浮かべる祈里の瞳に すっと氷の膜が張るように醒めた光が宿る。 「じゃあ、なんて?どちらかが無理矢理手を出さないと、 こんな事にはならないでしょ? 誘惑されて、ついフラフラと?」 こんな時までラブの事しか頭にないせつなに祈里は苛立つ。 どうすれば、もっとせつなを追い詰められるのか… 「…じゃあ、わたし、せつなちゃんに誘惑されたって言っちゃおうかな? ラブちゃん、どっちを信じるかな。幼馴染みで親友のわたしと、 出会ってまだ一年と経ってない、しかも最初はラブちゃんを騙して 近づいたせつなちゃんと。」 それは、せつなだろう。と祈里には分かっている。 せつながどれだけラブを愛しているかは誰が見たって明らかなんだから。 事実なんて、どうでもいい。ただせつなの心を揺さぶる事が出来ればいいのだ。 「……ラブは、気付いてるわ。」 せつなは臆せず祈里を見つめ返す。 ……知ってる。祈里もとうに気付いていた。ラブが、サインを送ってきたから。 最初は左乳房の脇にあった。 次は右乳房の下に。そして内腿の付け根、足を広げなければ見えない場所に。 花弁のような、赤い痣。 普段は見えない、けれど、その体を愛でようとするものには、嫌でも目に付く場所に。 『これはあたしのモノ』、所有権を主張する、印。 それは、日を追うごとに増えていった。 祈里がせつなを抱いた、その翌日でも。 せつなが自分に体を開いたその日まで、夜はラブを受け入れている。 その事実は祈里をこれでもかと、打ちのめした。 祈里との情事があった日くらいは、気まずくてラブを寄せ付けられないのではないか。 そう、思ってたから。 だから、せつなをますます言葉でいたぶる。 『せつなちゃん、エッチね。一日に一人じゃ満足出来ないの?』 『淫乱って、せつなちゃんみたいな子の事いうのね。』 『本当は、まだ足りないんじゃないの?欲しいって言ってごらん。』 「ずいぶん自信、あるのね。許してもらえると思ってるの? 言い訳なんて出来ないと思うよ。」 いっそ、心配そうにすら聞こえる声で祈里は言う。 無駄に、傷付くだけよ……。 「……許してもらえなくても、いい。軽蔑されたって……」 せつなの声が震える。 「このまま、嘘を続けるよりは、いいもの。」 泣くのかな?そう思った。 でも涙はせつなの瞼の淵にとどまり、目をそらすことなく見つめている。 「……側にいるって決めたの。」 「どうやって?」 意地悪く、祈里は続ける。 「ラブちゃんが、顔も見たくないって言ったら?出ていって欲しいって。 せつなちゃん、あの家追い出されたら行くとこなんてないのよ?」 「惨めよね、せつなちゃん。泣いてすがるの?『捨てないで』って。 恥ずかしくない?」 「……惨めなんかじゃないわ。」 せつなの瞼から塞き止められなくなった涙が溢れる。 「恥ずかしくなんて、ないもの。祈里は、違うの?」 泣いて、すがって、それで好きな人の側にいられるなら、いくらでもそうする。 他に欲しいモノなんてないのだから。 どう思われたって構わない。 ラブがどう思おうと、好きなのはラブだけだから。 「…祈里のことは、好きよ。でも、ラブより好きになれる人なんていないの。」 祈里の神経がささくれ立つ。好き?馬鹿にしてるの? 「……ここまで来て、取り繕う事ないのに。」 これ以上嫌いになりたくない。せめてそう言えばいいのに。 嫌いなんて言ったら、わたしが傷付くとでも思ってるのかしら?今さら? 「そこまで、いい子ぶらなくてもいいのに。自分が何されてきたか分かってる?」 殺したいほど憎まれても仕方ない。その自覚はあるもの。 「………本当よ。不思議だけど。」 酷い、と何度も思った。 それでも、祈里を憎む気持ちは湧いてこない。 ただ悲しかった。祈里の気持ちが。 「………嘘つき。……わたしのこと、考えたことなんてないくせに。」 「もう……、ここにはこないわ。」 祈里の呟きには答えず、せつなは鈍い動きでボロボロの体を引き摺るように、 のろのろと身支度をする。 いつもの光景。 違うのは、目をそらしているのが、せつなではなく祈里だと言う事。 赤い光に包まれて、せつなの気配が消える。 薄暗い部屋に取り残された祈里に、もう微笑みは浮かんでいなかった。 黒ブキ16へ続く
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/583.html
コトダマ(後編)/黒ブキ◆lg0Ts41PPY 下がった筈の熱にうかされた様に、せつなが胸を喘がせる。目尻に溜まった涙が今にも零れそうだ。 別にわざと焦らして意地悪をしているつもりでは無いのだが、ついつい相手から求める言葉が欲しくなってしまう。 「…もう、分かった…。分かったから……」 「何が?あたしがせつな大好きって事を?…じゃあ、あたしどうしたらいい?」 「……早く…」 「早く?」 「…続き……して、欲しいの……」 ぎゅっと瞑った目から涙がぽろりと零れる。ふっくらとした赤い唇はいじらしく震えている。 その甘く掠れた声が耳から脳髄を駆け抜ける。 ラブはそれだけで自分まで達してしまいそうだった。 苛めて、泣かせて、恥ずかしさも忘れるくらい悦ばせてやりたい。 あられもなく泣き叫ばせて、自分無しではいられなくしてやりたかった。 「…そんなに欲しい?また熱上がっちゃうかもよ…?」 「……いい、の。また、ラブに看病してもらう……」 「…どうしようか?…指と、舌と…どっちがいい?」 「……もぅっ!バカっ!苛めないって言ったじゃない…」 「ハイハイ、じゃあ、両方ね」 「ーーーっっ!」 ラブはぬるりと舌を蜜を滴らせる花弁に捩じ込み、回しながら味わう。 震える花芯は包皮の上から摘まみ、くりくりと弄くり回す。 せつなは声にならない悲鳴を飲み込み、体をビクつかせる。 以前なら、こんな強い刺激を急に与えられたらあっと言う間に果ててしまっていた。 ラブの愛撫はより巧みになり、せつなの敏感な部分を余す事無く探り出してくれる。 快楽は比べ物にならないくらいに深く濃密になって行くのに、絶頂を迎えるまでの感覚は だんだん長くなってゆく様だった。 どんどん体が変わってきている。 快楽に対してより貪欲に、細やかな愛撫の一つ一つに愉悦を感じる様になってきている。 ラブがせつなの体を憶え、どうすればより深く悦ばせる事が出来るか、 どのくらい昂らせれば、焦らしても大丈夫なのかを学んで来たように、 せつなもまた、どうすればラブが昂り、悦ぶかを感じ取ってきた。 声が艶を増し、肌は甘く匂い立ち、流す視線の一つにまでラブを誘う蠱惑の色が纏わり付いている。 せつなが昂り、啜り泣く程にラブは焦らし、より深い場所まで愉悦を与えてくる。 「…はあっ…あぁ…ラブッ…!…ラブぅ…んー…あぁん…ダメぇ…」 脚の間に顔を埋めたラブの髪に指を絡ませ、弱々しく引っ張る。 ズキズキと脈打ちながら疼く官能に全身を打ち震えさせながら、許しを乞う様に白磁の肌をわななかせている。 (…もう、そろそろ限界かな……?) いつもならもう少し焦らして泣かせる所かも知れないが、一応病み上がりだ。 あまり苛めるのはやめておいた方がいいだろう。 せつなの中から舌を引き抜き、チラリと様子を窺う。 充分に舌で犯された入り口は柔らかく解れ、慣らさなくても指二本くらいなら 受け入れられそうだ。 切なく荒い息遣いで、大人しくラブの次の一手を待っているせつなを、宥める様に髪を梳いてやる。 「ほら、力抜いて…」 「…んっ…ーーっ、んー…ふ…う…」 ゆっくりと楔を打ち込む様に指を潜り込ませる。 入り口で僅かに押し返す様な軽い抵抗を受けた後、逆に中へ中へと引き込む様に肉と粘膜が絡み付いて来た。 弛く指を曲げ、引っ掛ける様に抜き差しすると、同じリズムできゅうきゅうと締め付ける。 真っ赤に充血した小さな肉芽を柔らかく舌で包み込みながら舐め回すと、せつなの声が啜り泣きに 近くなってくる。 「…あっ、あっ、あっ、あっ、あんっ…ラブッ…はあ、…んっ…ラ…っブ…」 ちゅくちゅくと音を立てて肉芽を吸いながら、内側を擦りあげる速度を上げていく。 せつなの腰が小刻みに震え、全身が細かく跳ねる。 もう、充分に愉悦を味わった体は絶頂を求め、言葉よりも確かに昂りを伝えてくれる。 (…いいよ、せつな。今日は我慢しなくて…) ラブの指がせつなの最奥に達し、唇が一番感じる部分を容赦無く吸い上げ、甘噛みする。 せつなはラブの名前を悲鳴に近い涙声で高く鳴いた後、白い体を弓なりに反らし、果てた。 指を呑み込んだ場所が痛い程にキツく締まり、一瞬の後ふわりと柔らかく奥へ開き、吸い込まれる。 快楽の深さを伝える様に、やわやわと纏わり付く粘膜。 ラブはしばらく温かなぬかるみをかき混ぜ、名残を惜しみながらゆっくりと指を抜いた。 顔を上げ、視線を合わせる。 ラブは絶頂を迎えた後のせつなの、ぼうっと魂の抜けた顔を見るのが好きだった。 常なら凛とした光を宿した瞳は涙に潤み、形の良い艶やかな桜色の唇は紅を掃いた様に 色付き、熱い吐息に喘いでいる。 こんなせつなを知っているのは自分一人なのだ。 その事が、ラブの全身を痺れさせるくらいにゾクゾクする。 せつなが少し緩慢な動きでたおやかな腕を伸ばし、気だるげにラブの首を抱き寄せて来た。 ラブの耳許に届く熱く緩やかな息遣い。 自分の愛液を滴らせるラブの唇に、構うこと無く紅唇を押し当て、舌を這わせる。 お互いに言葉も無く、事後の余韻をたっぷりと愉しむと、ラブは満足気にせつなを見つめる。 今さら恥ずかしそうに視線を微妙に外すせつながおかしかった。 「せつなぁ、かなり気持ち良かった?」 「もう、バカッ。どうしてそう言う事言うのよっ!」 途端に拗ねた様にぷいっとせつなが背中を向ける。 真っ最中でもこれ程では無かったくらいに、耳が真っ赤になっていた。 ラブは構わず背中から抱き締める。 「ねぇねぇ、でもさあ。ここ最近じゃ一番じゃない?」 「…知らないっ!」 「……怒った?…嫌いになっちゃう?…ねぇ、ごめんって」 「……………」 口では謝りながらも、その口調は全く持って悪いとは思っていなさそうだ。 からかうようなラブの態度にせつなはぎゅっと身を縮める。 それでもラブはせつなを宥める様に包み込みながら、囁き続ける。 「あのねえ、せつな。あたし、知ってるんだぁ…」 「……?」 「せつなってさ、絶対に『嫌い』って言わないよね?」 「…………」 「イヤ、とか、ダメ、とか、意地悪、とか…あ、そうそう、バカッ!も結構言われるんだけど…」 「………」 「キライ!はどんな時でも聞いた覚えがないよ」 「………って……き…だもの…」 「ん?」 後ろから覗き込むと、せつなは耳だけでなく顔まで真っ赤になっている。 「…だって、好き、だもの………」 「………ーーーっ!!」 ラブは正に「パァァ!」と擬音語が聞こえそうなくらい、目一杯顔を輝かせる。 強引にせつなを引っくり返して向かい合わせると、犬の様に鼻息も荒く顔や体を擦り付ける。 こんな時でも「嫌いじゃない」とすら言わずに、ちゃんと「好き」と言ってくれるせつなが愛しくて仕方がない。 「そーだねっ!そーだよねっ!!あたしも好きっ!もう、好きで好きでどーしよっ?!」 「…もうっバカッ!ホントに知らないからっ!」 「あ、あたしってば軽く好きって言い過ぎ?」 「それはいいのっ!…たくさん言って…」 「うんうん!あたしもそー思うよっ!んーっ、好き好き好き!大好き!」 茹で蛸も顔負けに真っ赤に染まったせつなの顔にキスの雨を降らせる。 軽く拗ねていた筈のせつなも、いつの間にやらクスクスとくすぐったそうな笑い声を漏らしていた。 甘ったるいじゃれ合いの中、唐突にキュルルル…と間の抜けた音が響いた。 「…………ゴメン」 「…ラブ…朝ごはん、食べてないの?」 「いや、せつなと一緒に食べたいな、と…」 気の抜けたせつなはクスリと笑うと、シュンと尻尾を垂れた犬の様になってしまったラブの頭をぽふぽふと撫でた。 「シャワー、浴びて来るから。それまで待っててくれる?」 「はあい。ご飯、温めておきます…」 せつなはベッドから降りる。珍しくフラリとよろめいてしまった。 思ったよりも膝と腰にきていたらしい。 それを見たラブがまたニヤリとする。 「せつなぁ、お風呂まで抱っこしてあげよっか?」 「ーーっ!歩けるわよ!バカッ!」 「そー言えばさ、もう一つ気がついたかも」 「…?」 ラブは相変わらずニヤニヤと思わせ振りな笑顔で。 「せつなの『バカッ!』ってさ。半分くらい『好き』って意味なんじゃないの?」 「もうっ!ホントに!ラブのバカッ!」 更に顔を真っ赤にしてバスルームに逃げ込むせつなを見て、ラブはベッドの上で転げ回る。 (あーーーっもうっ、可愛いっ!) 本当に、なんて可愛いんだろう。 枕を抱いてのたうち回りながら、ラブはにやけ顔を止められない。 どんどん違う表情を見せてくれる。 毎日の様に新しいせつなに出会える。 もうこれ以上好きになるなんて無理、そう思うのに、昨日よりも今日の方が ずっとずっと好きになっている。 そして、たぶん明日はもっと。 愛しくて、可愛くて、胸が痛くなるくらいだ。 (もう、完全に元気そうだよね。朝ごはん、あれじゃ足りないな) シャワーを浴びて、美味しいご飯を食べればご機嫌も良くなるだろう。 今日一日はお姫さまの言う事をよく聞いて、お利口にしておこう。 (…どうするかな、パスタでも足すかな) 取り合えず、大好きな人に笑顔になってもらえるように、完璧な食事を用意しよう。 ラブは気合いを入れて、キッチンに向かった。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/333.html
第2話 暗闇の入り口 (……頭…痛い……。) 頭の奥がズキンズキンと疼く。体も鉛のように重く、動かない。 重い瞼を必死の思いで開く。何も見えない。どして? 部屋が暗いのだ、と分かるまで少し時間が掛かった。 目が慣れてくると、見馴れぬ天井と電器。 (…ここは……どこ?) 霞みの掛かった頭で何とか記憶を手繰る。 (あぁ…そうか、私、ブッキーの家に来て…) 部屋に上がり、お喋りして、おやつをご馳走になった。でも、その後の記憶がない。 (なんで、こんなに頭が痛いの…?) ズキンズキンと音を立てて、不快な痛みが神経を逆撫でする。 起き上がろうと頭を動かすと軽く吐き気がする。 不意に、さっきまで見ていた夢が脳裏によみがえった。 ラブの手と唇が体を這い回る。でも、その感触はいつもと少し違った。 遠慮がちで少し躊躇うような、拙い愛撫。初めて、触れ合う時のような…。 「気がついた?」 ぼんやりとしたせつなの思考は祈里の声によって破られた。 「よく眠ってたね、もう夜よ。」 少し離れた場所で祈里は椅子に腰掛け、微笑みを浮かべている。 「おうちには電話しておいたから。せつなちゃん、具合悪くなっちゃったんで 少し休ませて今夜はうちに泊めますって。」 私、具合悪くなっちゃったの?だから、寝かされてるの? よく…、覚えてない。でも大丈夫。少し頭が痛いけど、ちゃんと帰れるから…。 急に泊まるなんて迷惑だし。 せつなはまだ働きの鈍い頭で考える。 それに、祈里がすぐ側にいるのにラブとの情事を夢で見てたなんて…。 頭の中を覗かれた訳でもないのに無性に恥ずかしく、そしてなぜか、祈里に対して後ろめたかった。 「電話、ラブちゃんが出てね。迎えに来るって聞かないの。 もう遅いし眠ってるからって言ったら渋々諦めたみたいだけど。」 クスクスと祈里は楽し気に笑っている。 せつなは重い体を何とか引き起こす。 ごめんなさい、迷惑掛けて。大丈夫、帰れるから…。 (………えっ……?) せつなは自分の体に違和感を覚えた。 シャツのボタンが全部外されてる。それに…… 上も、下も、下着を付けていなかった。 (な…に…これ…。) 身動ぎすると胸の先端がシャツに擦れ、思わずゾクリと身が粟立つ。 体が敏感になってる。それに、腿の間のぬるく滑った感覚。 それは、せつなには何度も覚えのある馴染んだ……事後の感覚だった。 さっきの夢。どこか不器用で、不馴れな感触。 遠慮がちに肌を這い、少しもどかしいような拙い愛撫。 クラクラと目眩がする。暗い部屋。痛む頭。体に生々しく残る情事の感触。 そして、部屋にいるのは二人だけ。 何があったのかなんて考えるまでもないはずなのに、目の前にいる祈里と その行為がどうしても結び付かない。 (……嘘よね。…何かの間違い……) その考えは虚しくせつなの中を滑り落ちていく。 助けを求めるように、祈里に視線ですがり付こうとする。 祈里はそんなせつなの様子を相変わらす楽し気な、悪戯っぽくさえ見える 微笑みで眺めている。 「せつなちゃんって、すごく可愛い声も出せるのね。いつも大人っぽいから ちょっと意外。びっくりしちゃった。」 クスクスとからかうように祈里が笑う。それに…… 「それに、ラブちゃん一筋かと思ってたけど、案外そうでもないのね。 心と体は別?気持ち良くなれれば結構誰でもいいんじゃないの?」 (何を……言ってるの…?)いつもと変わらぬ優しく甘い笑顔の祈里。けど、その口から出る言葉は… 中身が別人とそっくり入れ代わってしまったのではないのか。 私は、こんな祈里は知らない。 「……ど…して…?」 祈里は立ち上がり、せつなに近づく。 せつなは反射的に逃げようと後ずさる。しかし狭いベッドの上では すぐ後ろに壁があるだけだった。 キシッと音を立て、祈里がベッドに身を乗り出す。 せつなは壁に背を預けたまま逃げられない。 「だってせつなちゃん、全然気付いてくれないんだもの。」 拗ねた子供のような口調。 「わたし、ずっと見てたのに。せつなちゃんったらラブちゃんに 夢中で他の人なんかまったく眼中になかったでしょ?」 わたしだってせつなちゃんが大好きなのに。息がかかるほどに顔を寄せ、祈里が 囁く。 「安心してね。ラブちゃんには言わないから。 せつなちゃんがラブちゃんを裏切った…なんて、ね?」 心臓が凍り付いた気がした。全身から血の気が引くのが分かる。 せつなの顔色が変わるのを祈里はいかにも楽しいそうに眺める。 壁に縫い付けられたように、体を強張らせているせつなの頬に指を這わせる。 クスクスと笑い声すら立てながら祈里はなおも言い募る。 「せつなちゃん、わたしの手でイッちゃったんだよ。気持ち良さそうに、 可愛い声上げてしがみついてきたの。」 (…やめて、……どして…?) せつなは壊れた人形のように弱々しく首を振る。いつの間にか 目尻から涙が溢れてくる。 「あぁ、泣かないで。ね。せつなちゃんを困らせたいわけじゃないの。」 ラブちゃんには言わない。もう一度繰り返し祈里は言う。 ラブちゃんと別れてとか、わたしを愛してなんて言うつもりはないの。 だって無理でしょ?そんなの。せつなちゃんはラブちゃんが大好きなんだもの。 ラブちゃんに嫌われるくらいなら、死んだ方がマシなくらい…ね。 だからね、内緒にしててあげるから、時々わたしともこんなふうにして?お願い? ラブちゃんとは今まで通り仲良くして。バレないように、分かる? 頭が痛い。体が動かない。ただ祈里の囁きだけがせつなの中を支配する。 (ラブを…裏切った…?) せつなにとってそれは魔法の言葉。ラブに嫌われる、ラブの側に居られなくなる。 それは、せつなにとって恐怖意外の何物でもない。 祈里はせつなの目尻から雫を吸い取り、そのまま口付ける。 そのキスは涙と暗闇の味がした。 第3話 心の距離へ続く
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/112.html
あたしはせつなが好き。友達としてじゃなく。 となれば、まずは想いを伝えること、だよね。 今日こそはせつなに告白しよう、そう朝日に誓う。 由美の後押しもあったしね。 あたしがキッチンにつくと、あたしの席にだけ朝食が。 せつなの姿は見えない。 「お母さん、せつなは?」 「せっちゃんなら、先に学校へ行ったわよ。何でもクラスの用事とかで」 「ふーん、そうなんだ」 えー、あたしは聞いてないんですけど。 それなら、昨日言って欲しかったんですけど。 あたしは不貞腐れながら、お母さんに返事する。 「大体ラブ、あなたは・・・・せっちゃんを見習って・・・・」 せつながいないからって、説教しなくてもいいじゃん。 あたしは退屈な国語の授業で習得した奥儀「馬耳東風」で、 お母さんの説教を、右へ左へと流した。 せつなが先に学校に行ってしまったのなら仕方ない。 あたしは一人で登校する。 見慣れた通学途中の道。 あたしの目の前を横切る黒い影。 あ、あれは。 あたしの意識は瞬時に戦闘モードへと切り替わる。 あれは、あたしの永遠のライバル。 あちらもこっちに気づいたようだ。 睨み合う二つの影。 どちらも微動だにしない。 一瞬の隙が勝敗を決する、というのは両者とも承知の上。 あたしは必殺のねこパンーチをお見舞いするにゃーー。 「いくにゃーー」 「にゃ、にゃー」 お互い、前に跳躍する。 すれ違いざまにパンチを繰り出し、着地。 あたしの鼻には引っかき傷、奴は無傷。 ま、負けた・・・。また負けたにゃー。 35戦32敗3引き分け。 あたしは傷心のまま、学校へ。 「ラブ、一体、何やっていたの?」 「いやー、あたしの永遠のライバルが」 「ライバル?」 せつながかばんの中から絆創膏を取り出し、あたしの鼻の先に貼ってくれる。 「ありがとう、せつな」 ブッキーなみの準備のよさ。 せつな、いいお嫁さんになれるよ。 できれば、桃園家に・・・って、うちに住んでいるんだった。 「ラブ、何したのか分からないけど、女の子は顔に気をつけなくちゃ」 いや、男の子にもてたいとか思わないけど、 せつなには嫌われたくないし、呆れられたくないかな。 でも、今絶対呆れているでしょ。やれやれって顔してるし。 授業開始のチャイムが鳴り、せつなはあたしから離れていった。 やっぱり、学校では人目があるし、告白するのは無理かな?でも放課後なら大丈夫かな? だけど、今日はミユキさんのダンスレッスンがあるし、その帰り道でも・・・ 「ラブ、おい、ラブ」 大輔の声がする。あたしは作戦中だって。 「おい、ラブ」 だから、大輔、あたしは今忙しいんだって。 「ラブ」 せつなの声が聞こえる。 あたしはパブロフの犬が如き条件反射的で、せつなの方を向くと、 せつなは前の方を指差している。 「桃園、答えられないのか」 ええー、先生があたしに問題を当ててたーーー!! 「ごめんなさい、分かりません」 あたしが言うと、教室中が爆笑の渦。 みんな、そこ笑うところ? でも、あたしもわらっちゃお。あっはっは。 「誰か分かるやついるか?」 「はい」 せつなが手を挙げ、前へ出て行く。 あたしにはさっぱり分からない公式を、あっさり解いていくせつな。 さすが、せつな。惚れてまう・・・って、もう惚れていたんだった。 ようやく、長い授業が終わり、放課後に。 今日はミユキさんのダンスレッスンがあるから、せつなと一緒に・・。 と思うが、せつなはクラスメイトとおしゃべりをしたまま動かない。 「あの、せつな」 「あ、ラブ、ミユキさんと美希とブッキーによろしくね」 「よろしくねって、せつな、今日レッスン休むの?」 あたしの言葉を聞いて、せつなは不審そうな顔をする。 「だって、ラブ。昨日の夜、朝と放課後、クラス委員の手伝いがあるって言ったわよね?」 そういえば、そんなこと聞いた気もする。 でも、昨日の夜といえば、あたしはせつなにどう告白するか考えていて、 そんな重要な情報を聞き逃していたあたしって、一体。 あたしはがっくり肩を落としたまま、公園へと向かう。 「あ、でも、遅れるけど、行きますからってミユキさんにって、ラブ聞いてない」 というせつなの言葉は、あたしの耳には届かなかった・・・。 後から合流したせつなを加え、ミユキさんのダンスレッスンが再開する。 ダンスの途中、あたしとせつなの視線が合う。 あたしの視線を受け、にっこり微笑むせつな。 か、可愛い。し、幸せゲットだよ!! 「ラブちゃん、顔が変よ」 すかさず、ミユキさんの叱咤が。 「ラブちゃんの調子も悪いみたいだし、今日はここまで」 「ありがとうございました」 いつもなら、少しでも長くミユキさんのレッスンを受けたいと思うけど、今日は特別。 一緒に帰ろうと、せつなの方を見ると、ブッキーとなにやら話してる。 と思うと、せつながこっちにやって来て、 「ラブ、私はブッキーと図書館に本を返しに行くから、お夕飯、先食べてて。 それと、おじさまとおばさまに少し遅くなるけど、心配しないでって伝えて」 というなり、あたしの方も振り返らずブッキーの所へ。 なにやら、ブッキー嬉しそう?もしかして・・・ 「ハイハイ、アタシ達は先帰りましょ」 あたしは美希たんに引きずられていく。 せつなーーー。待ってーーー。 あたしの心の大声は、誰にも届かないようだった・・・。 了 その頃のせつなと祈里は・・・ 「せつなちゃん、いい顔してる」 「いい顔?」 「うん、何かふっきれたような感じ」 「ふっきれた・・・のかな?」 「せつなちゃん、自信の素を思い出して」 「ええ、今朝も精一杯、頑張ったわ。・・・・歯磨き」 「そうそう、その調子。せつなちゃんだったら大丈夫って、わたし信じてる」 といった会話が、せつなと祈里の間でなされていたとかいないとか。 SABI8へ
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/1263.html
幸せは、赤き瞳の中に(第5話:届かない声) しんと静まり返った薄闇の中。ラブはベッドの上にそっと半身を起こすと、隣にある寝顔を見つめた。 閉じられた長い睫毛。小作りで均整の取れた顔立ち。額に一筋だけかかった黒髪に思わず手を伸ばしかけて、すんでのところでその手を引っ込める。今はその安らかな眠りを、少しでも邪魔したくは無かった。 小刻みに震える身体を抱き締めた感触が、まだこの手に残っている。あまり力を入れたら、手の中で消えてしまうんじゃないかと思うほど、弱々しくて儚げだった。 あんなに怯えたせつなを見たのは、いつ以来だろう。 (良かった。せつな、よく眠れてるみたいだね) 掛布団が規則正しく上下するのを見ながら、確か前にもこんな距離で、せつなの寝顔を見つめたことがあったな、と記憶を辿る。 あれは、せつなが初めて桃園家にやってきた日。まだせつなの部屋が出来ていなくて、ラブのベッドで一緒に眠った夜のことだ。 森の中で二人、互いに全てを懸けてぶつかったあの日。 心が通じ合ったと思った矢先に訪れた別れと、奇跡の再会。 そしてラブは、初めてラビリンスの――せつなの置かれていた、あまりにも冷酷な現実に触れた。 ――ねえ。せつなは幸せ? せつなの幸せは、なぁに? ――せつなはいつも一人で居るし、寂しいのかなぁって。 ――せつなも自分の体を大切にしなきゃ、周りの人たちが心配するよ? 友達だと思って発した数々の言葉が、せつなを傷付けていた。 友達だと思って過ごしてきた日々が、せつなを追い詰めていた。 それが悲しくて、悔しくて、今度こそあたしが付いてるからね、と涙をこらえてその寝顔に誓った夜。 でも、せつなの苦しみに比べれば、自分の涙なんて、本当に取るに足らないものだったと思う。 過去の自分の行いを悔い、せつながずっと苦しんできたことを、ラブは知っている。だから、ラブはせつながイースだった頃のことを尋ねたことは無かったし、せつなもまた、その頃のことを語ることは無かった。 それでいいと思っていた。仲間になり、家族になったのは、今のせつな。悲しい過去を振り返るより、その分もっともっと楽しい毎日を積み上げて、未来で幸せゲットしてほしいって思ったから。 でも今日みたいに、せつなが未だに過去の自分の影に怯え、震えているのを見ると、いつになく心が揺らいだ。 悲しい、というのとは少し違う。なんていうか、小さな後悔の芽のようなものが、心の中にむくりと頭をもたげたような……そんな感じがした。 (せつなは、せつなだよ。それは何があっても変わらない。だけど……本当にこれで良かったのかな。せつなが、これまでどんなところで、どんな風に過ごしてきたのか。何を考えて、何を感じて来たのか、もっと知ってたら……もっとせつなのために出来ることが、あったのかな) ラブは、せつなの寝顔をもう一度覗き込んでから、再びベッドにそっと身体を預けた。胸の上で祈るように両手を組んで、天井を見つめる。 (今、あたしに出来ることって、何だろう……) 淡い色彩の天井は、今は常夜灯の陰になり、ぼんやりとした闇に霞んで、ラブの目に映った。 幸せは、赤き瞳の中に ( 第5話:届かない声 ) 「せつなさん。注文しておいた新しい食器、届きましたよ」 ホールの入り口から、給食センターの職員の声がした。 「ありがとうございます」 テーブルクロスを畳んでいたせつなが笑顔で席を立って、その手から重そうな箱を受け取る。 戻って来たところで、ラブはせつなに近付くと、わざとその肩にぶつかるようにして、箱の中を覗き込んだ。 「わぁ、きれいなお皿だね、せつな。グラスもこんなに沢山!」 「ラブったら。いきなりぶつかって来たら危ないじゃないの」 もうっ、と軽く睨まれて、ラブはエヘヘ~、と頭を掻く。せつなの口元が柔らかくほころんで、その唇が、しょうがないわね、と動いた。それを見て、ラブは内心、ホッとする。 その声も表情も、立ち居振る舞いも普段通り、いつものせつなだ――そのことを何だか嬉しく思いながら、ラブはせつなを手伝って、食器をテーブルの上に並べ始めた。 一緒に作業をしていた職員たちが、テーブルに並べられた食器を見て集まって来た。艶やかな平皿の表面を感心したように眺めたり、グラスにこわごわ手を伸ばしたりしている。 長い間、食事は栄養を摂取するための義務でしかなかったラビリンスでは、当然ながら、食器を選んだり、盛り付けを工夫したりということは皆無だった。料理教室で使われている食器類は、調理台や調理器具と同じく、異世界から買ってきたり、工場に特別に頼んで作ってもらったりしているのだという。 その特注の食器の多くが犠牲となった思わぬ事件も、ようやく片付いた。これでまた、いつものように料理教室を開くことが出来るだろう。 職員たちの様子を嬉しそうに眺めながら、食器棚に食器を仕舞い始めるせつなに、ラブがタイミングよく次々と、テーブルの上のお皿を手渡していく。 「う~ん、この白いお皿は、お料理が映えそうだね。これにハンバーグを盛り付けたら、きっとすっごく美味しそうに見えるよ~!」 「そうね。このお皿なら、付け合わせのニンジンも美味し~く食べられるんじゃない?」 「うっ……せつなのイジワル。それなら今度の付け合わせは、ニンジングラッセじゃなくて、ピーマンのソテーにしようっと」 「そ……そこは別に、変えなくていいわよ」 ラブとせつなが交互に冷や汗をかいてから、最後は二人同時に、プッと吹き出した。そのまま、アハハ……と楽しそうに笑い合う二人に、周りの職員たちもつられて笑顔になる。 「随分と楽しそうじゃないか。何か旨いものの話でもしているのか?」 入口の方から、ひときわ明るくて大きな声がした。それを聞いて、もう一度せつなと顔を見合わせてクスリと笑ってから、ラブがブンブンと首を横に振る。 「違うよ、ウエスター。お料理教室で、せつなにどうやってピーマン食べさせようかなぁって話」 「何言ってるのよ。ラブがちゃんとニンジンを食べるのが先でしょ?」 「ほぉ。まさか苦手なものの話とは思わなかったぞ……」 ウエスターが少し驚いたように呟く。そして得意そうな顔で、抱えていた紙袋をテーブルの上に置いた。 「じゃあ、今度は旨いものの出番だな。今日のドーナツは、今までの最高傑作だぞ!」 「わぁ、ウエスター、ありがとう! ねえねえ、せつなぁ、どれにする?」 ラブが真っ先に歓声を上げ、早速ガサゴソと紙袋を覗く。が、一向にせつなの声が聞こえてこないのに気付いて、不思議そうに顔を上げた。 せつなは、さっきまでとは打って変わった厳しい顔つきで、窓の方に目をやっていた。ウエスターも別人のような険しい表情で、せつなと同じ方向を見つめている。 それを見て、最初は不思議そうだったラブの顔が、すぐに不安そうな表情に変わった。 ウエスターはともかく、せつなのこういう反応を、プリキュアとして一緒に戦っていた頃、ラブは何度か目にしたことがあった。他の仲間が誰も気付いていない危険を察知して、いち早く警告してくれる。そのお蔭で助かったことは、何度もあったのだが。 (きっとこれも、せつながラビリンスで身につけた能力なんだよね……) 何だか少し悲しい気持ちで、ラブがせつなの横顔を見守る。すると次の瞬間。 「うわーっ!!」 その場に居た全員が、一斉に両耳を押さえてしゃがみ込んだ。ラブの手からドーナツがひとつ転げ落ち、コロコロと床の上を転がって、ぱたりと倒れる。 衝撃波を伴った、耳をつんざくような凄まじい音。頭の芯に響くようなハウリング音が、突如襲い掛かったのだ。 これだけの大きさになると、音は強大な暴力と化す。窓ガラスにピシリと亀裂が走り、それがみるみる広がって蜘蛛の巣のようになったかと思うと、ガラスがザァっと一瞬で崩れ落ちた。 「な……何だ、あれ!」 よろよろと立ち上がった職員の一人が、裏返った声を上げて外を指差した。 枠だけになった窓の向こうに、のそりと立つ大きな影。その姿を、職員たちだけでなく、ラブとせつなも、そしてウエスターも、驚きのあまり声も無く見つめる。 ビル一つ分くらいの幅の円柱がぐんと縦に伸びた、巨大な棒のような胴体。その上に乗っかっている、これまた巨大な黒い円盤のようなもの。 何よりラブとせつな、それにウエスターを驚かせたのは、円盤の上部に見えるつり上がった赤い二つの目と、胴体の中央にある、黒っぽい色の大きなダイヤだった。 「あれって……やっぱりナケワメーケ?」 「ええ。どうやら素材は、この区画の街頭スピーカーみたいね」 怪物に厳しい目を向けたままでラブの質問に答えたせつなが、すぐに鋭い一言を発する。 「気を付けて! また来るわ!」 「ナケワメーケ! ワワワワワ……」 再びの音波攻撃に、今度は食器棚がミシミシと不気味な音を立て始めた。ウエスターが慌てて棚を押さえ、長い足を素早く伸ばしてドアを蹴り飛ばす。 「イース! ラブ! とにかくみんなを連れて逃げろ!」 「わかった。こっちよ!」 せつなが先頭に立って、廊下に出る。職員たちを全員外に出してから、最後にラブが走り出した時。 「ホ~ホエミ~ナ~。ニッコニコ~!」 「ホホエミーナ、行け! ヤツを止めろ!」 聞き覚えのある能天気な雄叫びと、ウエスターの凛とした声が、今飛び出したドアの向こうから聞こえた。 ☆ せつなとラブは、給食センターの職員たちを連れて、すぐ近くにある食糧庫を目指した。 食糧庫なら、頑丈なシャッターが付いているから音波も遮ってくれるに違いない。おまけに広いし、何と言っても食糧なら豊富にあるので、避難場所としてはもってこいのはず――走りながら、せつながそう説明してくれる。 周りの建物も、そのほとんどは窓ガラスが割れ、なかには壁にひびが入っているものまであった。 何が起きたのか訳が分からず、通りをうろうろしている人。ガラスの破片が飛び散っている道端で、頭を抱えてうずくまっている人。人々は皆呆然としていて、その顔にはほとんど表情が無い。せつなが落ち着いて人々を誘導し、食糧庫へと向かう長い行列が出来た。さっきの楽しい時間を思い出して、ラブは唇を噛みしめる。 後ろを振り返ってみると、ナケワメーケの前に、平べったい円形の身体のホホエミーナが立ちふさがっていた。どうやら給食センターのフライパンが素材らしい。その奮闘のお蔭か、耳を塞いでも防ぎきれないあの凄まじい轟音は、さっきと違って、今は時々途切れるようになってきている。だが、なかなか完全には止まないところを見ると、ホホエミーナはどうやら苦戦しているようだった。 「それにしても何なんだろう? あのナケワメーケ」 「分からない。あんな色のダイヤも、見たことがないし……」 ラブの問いに、せつなが前を向いたまま苦い表情で答えかけた時、一人の幼い女の子が、通りをふらふらと歩いているのが目に入った。 「ここに居ては危険よ。私たちと一緒に、安全なところへ行きましょう」 せつなが女の子の側にしゃがみ込み、目線の高さを合わせて、優しい声で語りかける。そして女の子の手を取って立ち上がらせると、その子としっかりと手を繋いだ。 ラブが、そんなせつなの様子に、フッと頬を緩める。せつなはそんなラブの顔を照れ臭そうにチラリと眺めてから、女の子と一緒に列の先頭に立った。 「さあ、そこの角を曲がったところよ!」 後ろに続く人たちにそう声をかけて、せつなが女の子を気遣いつつ、速足で交差点を右に曲がる。続く人々を誘導してから、自分も角を曲がろうとしたラブは、もう一度ナケワメーケの方を振り返って、そこで思わず足を止めた。 (あんなところに、誰か居る!) 二体のモンスターが戦っているすぐ近くの陸橋の上に、小さな人影が見える。いくら途切れ途切れとはいえ、あんな近くでは轟音も物凄いだろう。もしかしたら取り残されて、動けなくなっているのかもしれない。 「ラブ~! どしたの?」 ラブが来ないのに気付いたのだろう。曲がり角の向こうから、せつなの叫ぶ声が聞こえた。それに大声で答えようとした時、またしても音波が襲って来て、ラブは慌てて両手で耳を塞いだ。 「早く助けなきゃ!」 思わず二、三歩走りかけて、せつなのいる方を振り返る。心配させないように一言伝えてから行きたいが、今は普通に会話するのすら難しい状況だ。それにぐずぐずしていたら、あの人がますます危険にさらされるかもしれない。 (せつななら、分かってくれるよね?) ほんの少しだけためらってから、ラブは意を決して、元来た道を全速力で走り出した。 ナケワメーケに近付くにつれ、さすがに音波の衝撃は強くなってきた。音だけでなく、物理的な圧力が、突風となってラブを押し戻そうとする。ラブは、足から力が抜けそうになるのを必死で堪え、建物の陰から陰へと移動して、じりじりと前へ進む。 ようやく陸橋がよく見える距離まで近付いた時、ラブは、ん? と不思議そうに呟いた。 ごしごしと目をこすって、陸橋の上に居る人物にもう一度目を凝らす。そして。 「あーっ、あなたは!」 誰も聞いていないビルの陰で、ラブは思わず大声を上げた。 肩の上くらいで切り揃えられた、少しくすんだライトブラウンの髪。大きな緋色の目がひときわ強い存在感を放つ、色白で端正な顔立ち……。 間違いない。昨日、公園の奥の畑で出会った少女――あの時、せつなと睨み合ったあの少女だ。だが、今日の彼女の服装は、昨日と一昨日会った時のラビリンスの国民服とは、明らかに違っていた。 上半身は華奢な身体にぴったりとフィットし、裾はマントのように長くて後ろに広がった形の、黒い衣装。細い手足は、同じく黒の長手袋と、黒の長靴下に覆われている。 ラブの目に焼き付いている、親友のかつての姿とは同じでは無いものの、それをありありと思い起こさせる姿。 と、その時ちょうど音波が途切れ、彼女の声がはっきりとラブの耳に飛び込んで来た。 「何をしている、ナケワメーケ! もっと攻撃しろ! 愚かで恩知らずな者どもを、不幸のどん底に突き落としてやれ!」 そう、彼女はそこに取り残されているわけではなかった。左手を腰に当て、右手を前に突き出して、ナケワメーケに檄を飛ばしていたのだ。 「え……えーっ!? あの子が、ナケワメーケを!?」 またしても誰も居ないところで大声を上げてから、ラブがハッとしたような顔つきになった。 「不幸の……どん底に……?」 彼女の言葉に奮起したのか、ナケワメーケは再び強烈な音波を放ちながら、街の方へと歩き出そうとしていた。ホホエミーナが立ちふさがり、その丸くて平べったい身体をナケワメーケに叩き付ける。 ゴン、という鈍い音がして、ナケワメーケがぐらりとよろけ、地響きを上げてその場に倒れた。ホホエミーナが相変わらず笑顔のままで覆いかぶさり、ナケワメーケのダイヤに手を伸ばす。 だが、そこで予想外の出来事が起こった。ホホエミーナの手がダイヤに届いたと思った瞬間、まるで感電でもしたように、ホホエミーナが弾き飛ばされたのだ。建物の上に倒れ込んだホホエミーナが、衝撃にビリビリと身体を震わせながら、必死で立ち上がろうとする。 「ハハハ……! 何度やっても無駄だ。お前にコイツは倒せない。それどころか、お前が居るお蔭で不幸がもっと広がっている。見ろ!」 「ホ……ホエミ……ナ……」 勝ち誇ったような少女の言葉に、ホホエミーナが目尻をカタッと下げて、悲しそうに辺りを見回す。 二体のモンスターが戦っている周辺の建物は、そのあおりを受けて、ほとんどが全壊、半壊の状態になっていた。 戦意を喪失したホホエミーナに、ナケワメーケが再び音波を浴びせかける。 「もうやめて!」 自分の声さえ聞こえない騒音の中で、ラブは思わず叫んでいた。 鋭い目でナケワメーケを見据える少女の姿が、ラブの中でいつの間にか、かつてのせつなの――イースの姿と重なっていた。同時に、昨日自分の腕の中で震えていたせつなの姿が、それと重なるように蘇って来る。 「ダメ……。このままじゃ……ダメ~!!」 ラブはグッと拳を握ると、風圧に何度も転びそうになりながら、再び通りを走り出した。少女が立っている陸橋は、モンスターたちの戦いの現場を挟んで向こう側にある。 路地から路地を斜めに走って、大回りをしてナケワメーケの背後に回ると、あんなにラブを悩ませていた音は嘘のように小さくなった。音は一定の方向に向けて、強く発せられているらしい。なるほど、それで少女はあんなにも平然と、立っていられるのだろう。 どうにか少女の立つ陸橋の下までやって来ると、荒い呼吸を力づくで抑え込んで、精一杯の大声を張り上げる。 「もうやめてっ! どうしてこんなことをするの?」 「ん? ……ああ、お前か」 少女がナケワメーケから目を離し、ラブの姿を認める。そして昨日とは打って変わった余裕の表情で、ふん、と鼻で笑った。 「どうして? そんなこと、聞いてどうする」 「だって……何か理由があるんでしょう?」 「ふん、異世界人のお前には関係ない。とっとと自分の世界へ帰るがいい」 「関係あるよっ!」 「何っ?」 打てば響くように返って来たその言葉に、少女が初めて、怪訝そうな顔になる。が、続くラブの言葉を聞いて、その表情は次第に険しいものに変わった。 「あたし、あなたにこんなことして欲しくない!」 「……何を言ってる」 「人を怖がらせたり、傷付けたりしてしまったら、結局は自分が傷付くことになるんだよ。あたしはあなたに、悲しい顔して欲しくないの。だから、こんなこともうやめて!」 今まで悠然とラブを見下ろしていた少女が、ギリッと奥歯を噛みしめる。そして矢のような速さで陸橋の上から飛び降りると、ぐいっとラブの胸倉を掴んだ。 「お前、正気か? お前に私の何が分かると言うんだ」 「わ……分からないよ。でも……あなたはあたしを……助けてくれたじゃない。ほら、初めて会ったとき」 息苦しそうに、それでも必死で言葉を押し出すラブをじろりと睨んでから、少女がラブから手を離す。 「あれは助けたんじゃない。お前がぶつかって来ただけだ」 「でも、転ばないように受け止めてくれた」 「だから、それはたまたまだっ」 穏やかなラブの言葉に、思わず食ってかかってから、少女は珍しいものでも見るようにラブの顔を見つめて――もう一度、ふん、と小さく笑った。 「どうしても私を止めたいと言うのなら、一緒に来い。私がすることを、見届ければいい」 「え……」 「ふん、やっぱり私が恐ろしいか」 「そんなこと無いよ!」 突拍子もない提案に戸惑ったラブが、少女の挑発めいた言葉に、再び勢いよく反論する。それを見て、少女が今度はニヤリと笑った。 「お前には、一切危害を与えないと約束する。ただし、来るのはお前だけだ。 私が目的を達する前に、お前が私を止められれば、何でも言うことを聞く。止められなければ、もうこの世界にお前の居る場所は無い。尻尾を巻いて自分の世界に帰るがいい。何も出来なかった、無力感という名の不幸をお土産にな」 ラブが、真剣な眼差しで少女の顔を見つめてから、こくん、と頷く。 「必ず止めてみせるよ、あなたのこと」 きっぱりと言い放ってから、ラブは何かに呼ばれた様に後ろを振り向いて、あっ、と声にならない声を上げた。 ナケワメーケとホホエミーナが戦っているその向こう側、ナケワメーケの轟音の只中に、驚きのあまり瞳を極限まで見開いた、せつなの姿があった。 「ふぅん、お仲間が来たようね」 少女がせつなに気付いて、ニヤリと小さく笑う。 「どうする? 引き返すなら、今のうちだぞ?」 「ううん。でも……お願い、せつなと話をさせて」 「それはダメだ。ヤツはラビリンスの国民だ。こちらに来させるわけにはいかない」 「話をするだけだよ。行くのはあたし一人でいい」 「ふん、そんな手に乗るか。ヤツはメビウス様を裏切った元幹部。信用できるはずがない」 「……そう」 ラブは、少女の顔を少しの間見つめてから、くるりとせつなの方を向くと、ありったけの声で叫んだ。 「せつな、ゴメン! 心配かけて、本当にごめんなさい! あたし、どうしても行かなくちゃいけないの。必ず帰って来るから……必ずみんなで、幸せゲットしてみせるから。だから、待ってて!」 せつなが子供のようにイヤイヤと首を振りながら、何かを必死で叫んでいる。その言葉は、ナケワメーケの音波に邪魔されて、ラブの耳には届かない。 だが、ラブはそんなせつなをじっと見つめた。耳ではなく、目にせつなの思いを刻み付けようとでもするように、大きく目を見開いて、見つめ続けた。 「愚かなことを。この状況で、声など届くはずがない」 ラブの大声に一瞬キョトンとしてから、少女が苦々しそうに吐き捨てる。ラブは、そんな少女にチラリと目をやって、小さく微笑んだ。 そしてそっと目を閉じてから、もう一度せつなを見つめると、思いを込めて、最後にこう叫んだ。 「せつなぁ~! 大好きだよ~!!」 「ふん、下らない。ナケワメーケ! 戻れ!」 少女が呆れたようにため息をついて、ナケワメーケに指示を出す。 ナケワメーケの身体が鈍く光ったかと思うと、その直後、高脚付きのスピーカーが地響きを立てて地面に倒れ、少女の手にはナケワメーケに付いていたダイヤがあった。 「ラブっ!」 せつながこちらに向かって脱兎のごとく駆け寄る。が、それと同時に少女がラブの腕をぐいっと引いた。 次の瞬間、少女とラブの姿は忽然と消え失せて、せつなはようやく静けさを取り戻した街に、一人呆然と立ち尽くした。 ~終~ 第6話:不幸の襲来へ
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/909.html
「赤い瞳の貴女が好き」/ねぎぼう ”悪の女王はその呪縛が解けるとともに、瞳が赤から青に変わった” テレビアニメのワンシーンを見て、せつなに衝撃が走る。 (赤い目って、この世界ではやはり悪い人間の象徴なの?) 隣では、ラブがずいぶん感動して涙を流している。 そんな時に尋ねることではないということはせつなも分かってきていた。 「せつな、感動したよねえ~」 「ええ、そうね……」 ♪~ 「え、ミユキさんが急にオフになったの?今から?うん、行く!」 「ラブ、今からレッスンなの?」 「うん、大会も近いしね。美希たんも午後から撮影あるから11時からだって」 練習着に着替えるためにめいめい自分の部屋に戻る。 せつなは、あらためて自分の目を姿見に映してみた。 燃えるような真っ赤な瞳。 (私は確かに悪いことをしてきたし、その罪から逃れられるわけではないわ。 でも、やはりこのままだと一緒にいるラブやお父さん、お母さん達にもつらい思いを させてしまう) 着替え終えて階下に戻ると、リビングでは圭太郎がテレビを観ていた。 (お父さんに尋ねてみようかしら?でも……) 「お父さん……」 「なんだい、せっちゃん?」 「あの……」 言い出せないまま、時間が過ぎる。 「せつなー、そろそろ行くよー」 「ええ」 奇しくも流れていたCMの一つに目に止まった。 (これだわ!) せつなはある決心をした。 「何かあったのかい?」 「ううん、なんでもないの。いってきます!」 圭太郎は狐につままれたような気分であった。 * 「ありがとうございました」 ドラッグストアから出てきたせつな。 (初めてだけど……精一杯頑張るわ) 手には青色のカラーコンタクト。 * 家に帰っていざ装着してみたものの…… 慣れないコンタクトレンズに悪戦苦闘するせつな。 (コンタクトって痛いのね…… でもこれ以上ラブに後ろめたい思いはさせられないわ) とはいうものの、目は潤んできて前が見にくい。 手探りで廊下を歩いているとタルトに会った。 「パッションはん、どないしてん?」 「コンタクト付けたんだけど、なかなか大変ね……」 「あんさん、目はめちゃめちゃええんちゃいますのん?」 「やっぱり、この世界では赤い目はまずいわ」 「そうなんかなあ……でも無理せんほうがええで?」 「タルト、私は、ラブのことを守りたいの!」 そうしているうちにラブが居残り補習から帰ってきた。 「ただいま!」 「おかえり、ラブ」 「せつな、どうしたの!」 目に涙を浮かべたせつなを見てラブは血相を変える。 「コンタクトレンズを着けたの」 せつなの瞳は青くなっていた。 「なんで?目はいいんだよね?」 「この世界では赤い目は悪い人間の印なのよね?」 「そんなぁ……誰もせつなを悪く思っている人なんていないよ!?」 「でもこれで大丈夫よ、ラブ。もう後ろめたい思いはさせないから!」 「え?」 「このまま私と一緒にいたら、ラブも悪い人間だと思われてしまうわ」 (あたしが悪く思われるのを恐れているの?) 「ちょっと目は痛いけど、すぐ慣れるから」 涙で目が潤んでいるだけでなく、若干充血気味である。 ラブは、せつなをぎゅっと抱きしめた。 「せつなは、そのままでいいんだよ」 「え?」 「あたしはせつなのその真っ赤な目も、真直ぐな頑張り屋さんなところも、 ちょっと意地っ張りなところも、全部……全部……大好きだから…… そのままでいて……」 そういうと、大粒の涙をこぼす。 「もう、ラブったら……ごめんなさい」 「それに、ぜーったいに無いことだけど、たとえ世界中の皆がせつなの敵になっても、 あたしがせつなのこと守るから!」 「ラブ……」 せつなの目からも涙がこぼれた。 それはコンタクトのせいだけではなかった。 (ありがとう。ラブが私を守って傷つくことなんて、 この優しい世界でなら無いわよね……) 結局せつなはカラーコンタクトを外し、元の赤い瞳に戻った。 * 「へー、これがカラーコンタクト?美希たんみたいな目になれるんだ?」 「痛いわよ、我慢できる?」 「そういえば、青い髪のカツラがあったっけ。あたし完璧!?」 「ラブに美希の歩き方は無理ね。滑稽なだけよ?」 「……やっぱりやめとこ」 こうして、残りのカラーコンタクトはせつなの机の片隅を占めることとなった。 * 赤い瞳は闇を超えた、ゆるぎない情熱の証 桃色の瞳に懸けて、それを壊させたりはしないから